それでもつながる細くてゆるい糸


10年越しの友人、というかかつての友人でいま知人程度、というべきか。ちょっと疎遠になってるけどなんとなく向こうから連絡くるから細々とつながっている人がおりまして。


――ぶっちゃけ、こんなことこんなことやって、最終的にこんなとこにまで堕ちてしまった人なんだけど。


「久しぶりに東京行くから、時間があったら会いましょう」、と呑気にメールが来たのは先月のこと。
私以外の女友だちはみんな、彼の依存心に辟易してさっさとメアド変えて着拒にして連絡を絶ってしまったせいもあり、最後の一人である私にしつこく連絡してくる。


タイミング的に携帯を変えたのもあって、いっそこのまま他の人と同じ様に知らんふりしちゃえばオシマイ、その方が気楽かも。正直そんな風に迷ったりもしたけど。結局、新しいメアドを教えて、じゃあお茶でもしましょうかということになった。

彼とは面識のある夫には「別にいいんだけど。中途半端にだったら優しくしない方がいいんじゃない?」と出掛けにつぶやかれた。
・・・そうなんだよなあ、こうやって中途半端に親切なフリしちゃうのが自分の甘いとこなんだ、と思いつつ再会の場所に向かう。


4,5年ぶりに会う彼は、薬のせいかちょっと太っていて、でも以前のような自暴自棄な感じはなくなっていた。
生活保護の受給から障害者年金に切り替え、障害のある人たちが就業する専門の施設で働いている、という。すごいじゃん、仕事出来るようになったなんて。元気になったんだね。そういうと。

「でも、給料は安いですよ。月に1万5千円」

ハッキリ言って稼いでいるうちに入る金額じゃない。高校生のバイト君の方が何倍も稼ぐはず。


でも、一時期どん底まで堕ちきった彼にとっては、少なりとはいえ毎日施設に足を運び、家に引きこもらずに施設の誰かしらと会って給料を手に出来てる状況は、明らかに大きな改善なわけで。

窃盗の件も、多分もう執行猶予期間は明けてるからそちらもきれいに償いは済んだはず。


施設の軽作業じゃなくてアルバイトもしたいけど、まだ症状に波があってシフト組んでもそのとおり勤められるかわからない。自信がない。施設だったら、顔さえ出せば仕事しないで休んでられるから。

そう穏やかに話す彼の表情には、現在の自分の状況を卑下するところはまったくなかった。


家庭に問題があったせいか、ちょっといいなと思う女性はホイホイ口説くくせに、きちんと長くはつき合えない。
「riverさん、タバコ苦手でしたよね」とわかっていながら、それでもわずか1時間ちょっとの間タバコをガマンすることも出来ず、目の前でマルボロ吸っちゃうほど無神経。


彼氏には絶対したくないタイプなんだけど・・・どうしてなんだろう、他の女友だちみたいにスパっとつき合いを経つことが出来ない。
心の底から同情するほど、彼にシンパシィ感じてるわけじゃないんだけど。


家に帰ってきて様子を報告したら、聞いていた夫が「(私は)彼にとっての出島なんだねw」と言った。確かに。
私のことを友人として気に入ってくれてるというよりも、情報源の一つとしてどうしてもつないでおきたい糸が、彼にとっての私なのかもしれない。


もっと若い頃は、こんな風に堕ちてしまったりなかなか這い上がれない人のことを許せなかった。
努力すれば上にいけるのに、なんでやろうとしないんだろう?とか、平気で思っていた。

でも、世の中そんなに強い人ばかりじゃないんだよな。
彼だってこうなる前は最強の地方公務員だったけど、一度そこから転がり落ちるとなかなか元の位置には戻れない。


多分、私も彼と同じ様に弱い人間なんだ。

いわゆる「成功」みたいなところから外れてて、でも一応家族がいて柔術みたいな打ち込める(ヘタだけどね!)趣味もあって、そんな程度で「ま、人生こんなもんでいいんじゃない?」と思ってて。


「たった1万5千円だけど、それでもオレ、いま自分で稼いで生活してるから」

負け惜しみがまったく含まれてないとは思わないけど、自分のことをこんな風に言えるようになった彼を見て、ああ、やっぱり着拒とかしないでよかった。そう思った。


多分また一年くらいメールの交換もろくにないだろうけど。
私とつながってることが、彼にとって安心材料のひとつになってるなら。それで十分かもしれない。


細くて、ゆるくて、頼りなくて。
途切れるときもあれば、またそれを結び直したり。

人と人との縁なんて、それほど実利のあるものじゃなくていい。
きっとそんなものなんだ。