アマデウス in ル・テアトル銀座


男の嫉妬の物語、ですね。演出・主演の松本幸四郎さんがいうとおり。


じつはミュージカルなのかと間違えて、「おおっ、武田真治モーツァルト*1なら聴きたい!」と早合点してチケット取ってしまった作品。舞台装置も衣装も敢えてシンプルに、生身の役者の演技を堪能する演出になっていて、それがなかなかよかった。

(ちなみに映画「アマデウス」は過去に観てたんだけど、ほとんど記憶してなかったことが判明(^_^;) )


サリエリを含む守旧派の音楽家たちが題材として神話や伝説ばかり取り上げるのに対して、モーツァルトは市井の人々のドラマに注目し、それを題材として積極的に取り上げていくシーン。ここの武田モーツァルトはよかった。

普通の人のドラマだからいいんだ、だからこそみんなが共感する。そうすることで逆に普通の人の物語が伝説になるんだ。そんな意味のことをモーツァルトが言う。

これは脚本家のドラマ観でもあると思うんだけど、こうして音楽への純粋な情熱を語り、いい作品を作るほど、周囲の人間関係は軋み始める。音楽家として未来を見据え、正しいと思うことをやり通そうとすればするほど世間とズレてしまう。こういう「やればやるほどズレてしまう」役に、武田真治ってハマるよねw


でも。やっぱりこれは幸四郎の舞台ですよ。まさに圧巻。ボロボロのガウンをパッ!と脱ぐともう30年の時を遡って若かりし頃のサリエリになってしまう。しかも出ずっぱりで、あの長台詞。すごい人だわ、本当に。


モーツァルトの尋常ならざる才能を理解することは出来るのに、自分にはモーツァルトほどの音楽的才能はないことがわかってしまう切なさ。なぜ「神」は自分を愛し、その声を聴かせてくれないのか。なぜ、自分ではなくモーツァルトなのか。なぜ、なぜ。


そう、「男の嫉妬」の物語なんだけど、サリエリが本当に憎んでいる相手はモーツァルトじゃない。
自分を愛してくれない神を憎み、その神が不遜な自分に仕返しをしてこないことに苛立っている。散々悪さしてもまったく叱らないでスルーする相手に対して、「俺のこと無視すんなよ!」と怒ってる不良青年と同じなわけです。


死の床にあるモーツァルトの「レクイエム」を書き留めるときのサリエリは、ある意味幸せだったんじゃないだろうか。モーツァルトを媒介に、初めて神の声が聴こえた瞬間だったのだから。


内山理名ちゃんのコンスタンツェ、キュートで可愛かったけど。うーん、もうちょっとドロドロしたところがあってほしかったような気が。
ただのアホで軽薄な女かと思いきや、サリエリに抱かれることで夫・モーツァルトの出世を買おうとするしたたかさ、かと思えば死の床にあるモーツァルトをこの世に引き留めようとする母のような強さ。もうちょっと「悪い女」の要素がある女優さんで観てみたかった感じ。


一緒に鑑賞した夫は、ドレスの寄せた胸の谷間だけで「常盤貴子」「深キョン」「石原さとみ」等々勝手なことを言ってましたw 私は菅野美穂ちゃんがいいように思ったけど、それじゃ「君の手がささやいてる」コンビになっちゃってつまんないし。

あ。ちょっとゾッとする組み合わせだけど、松たか子は?・・・って、さすがに実の娘とああいうシーンはダメだな、うん。

*1:モーツァルトは初演が江守徹→再演が市川染五郎(息子)→今回が武田真治、となっていて、江守モーツァルト版はさぞすごい演技合戦だったろうなあと想像。