「Kids Return」リターンズ


実写版「あしたのジョー」を見た時から、絶対また見たいなあと思ってたのがこの映画で。
(ちなみにそのときの感想はこちら→

久しぶりに再見したらまあ、ハマるハマるw

ボクシングのシーンが見たくて見返したのだけど、もはやリターン出来ない年齡になってから見るというのはなんというか・・・まあ、ハッキリ言って”痛い”映画でした。自分にとって。


回想シーン早々、学校の校庭で逆向きに自転車の二人乗りをする学ラン姿のシンジ(安藤政信)とマサル金子賢)。この黒と赤のコントラストは何度見てもいい。まだ何者でもない二人の安寧と焦燥感。美しい。

極道の世界で徐々に出世し始めたマサルが、同じくボクシングの才能を見出されたシンジとボクシングジムで対峙する場面。
サンドバッグをはさんで光の当たる位置にシンジが、影になる場所にマサル立っているシーン(1:30くらいから)は、その後二人が辿る苦い末路を予感させる。うまいなあ。これがデビュー作だった安藤政信のウブな雰囲気と相まって、ここもまた儚い美しさに満ちたいいシーンだと思う。


この映画の中での二人の年齡は18歳から始まり20代半ばくらいまでだと思うけど、そこで「何者にもなれなかった者」が華々しくリターンマッチを飾れるほど、世の中ってのは決して甘くない。それは自分がそうなだけに痛いほどわかる。


せっかくボクシングという天賦の才に恵まれながら、若い才能を潰すのが趣味なのかと思うようなジムの先輩・林(モロ師岡←最高♪)によって、あっけなくダークサイドに堕ちるシンジ。このあっけなく人生踏み外してしまうところが「若さ」だ。そこから這い上がれる人はもちろんいるけど、もうそこには戻れない人もまた大勢いる。踏み外す前には、そういうことってわからないから。


そのシンジの造形が「あしたのジョー」の山Pジョーよりもずっとリアルにボクサーらしく見える。

極限まで作りこんだ鋼の肉体も、派手なCGも音効もない。けど、試合の場面や練習風景でシンジの繰りだす乾いたパンチの重みを妙に感じるのは、多分そのせいなんだと思う。*1


あんまり深く考えず、恵まれた才能を簡単に手放し、あともうちょっと踏みとどまることで見える世界からアッサリと退場してしまうシンジ。

この苦さを「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかな?」「バカヤロウ!まだ始まっちゃいねぇよ!」と笑い飛ばせるのが若さで、「始まってないはずだったのに・・・も、もう人生折り返しちゃってるよ・・・!?」と顔面引きつりつつ笑うしかない、それが若さを失った年齡になってこの映画を見る、ということなのだ。


セリフは爽やかだけど、映画のラストはバッドエンドだ。二人はその現状認識の甘さから、また似たような失敗を犯し、おそらく大したことない人生を歩んでいくはず。
失敗は繰り返され(return)、そのくせ陽の当たる場所には容易に戻れない(no return)。それが若さ(kids)の残酷な条件だ。


救いは、喫茶店の看板娘を最後には口説き落とす同級生のエピソードにある。

以前見たときには、彼のエピソードには特に強い印象を持たなかったけれど。
事故で生死の境を彷徨い、芸能人としては再起不能と言われた北野武監督が、物語の中に彼の存在を滑りこませた理由。それが、今はよくわかる。


彼の人生を「幸福」というのかどうか、その結果から推し量ることは出来ないけれど。
不器用でも自分なりに悪戦苦闘しながら生き、その中で自分の生を輝かせること。人はそうしてしか生きられないし、そんな風に生きた人のことを残された者は決して忘れない。

苦い結末ではあるけれど、これは北野監督としては最大限のエールなのだろう。


疾走感のあるテーマ曲がまたイイ。無邪気に青春の一時期を駆け抜けるシンジとマサルを思い起こさせて、必聴です。


※あんまり大きな声では言えないけど、youtube漁ると見られたりするので、興味のある方はぜひ。
Part1/Part2/Part3/Part4/Part5/Part6/Part7/Part8(というかラストとテーマ曲)・・・あっ、全部書いちゃった(^_^;)

*1:ちなみに、シンジのトレーナー役は「あしたのジョー」と同じく梅津正彦さんでした!大発見☆彡