拳がつなぐ「あした」〜あしたのジョー・2011年版〜


あしたのジョー・実写版」を観た。映画館で見そこねて、ようやく今頃になって、DVDで。


―― 大画面で観たかったなあ〜、これ。ファイティングシーンがものすごくよくて、DVDでも冒頭のジョーのケンカから最後の力石との死闘まで、何回も再生してたので夫に呆れられた。「また見てるの!?」・・・いいでしょ、気に入ったんだから!o(`ω´*)o


先行公開された「宇宙戦艦ヤマト・実写版」も、あの波動砲のシーンが実写化(いや、CGなんだけどw)されただけで「うわあ〜♪」な気分になってしまった自分には、今回もジョーと力石役の山P、伊勢谷氏の鋼の肉体美が具現化されたことに「おお、これはスゴイ!」と素直に感動してしまった。


ちょうど打撃のクラスに出たあとに見たので、「そっか、こういう風に打つのか!」と教科書替わりに何度もリピートw
伊勢谷氏のフォームが本当にキレイで、見ていてため息が出る。今のところまっっっったくの猫パンチ派な自分だけど、いつかこんな風に打てるようになるんでしょーか・・・


物語の方は、なまじ二人の肉体とファイティングシーンがリアルなだけに、ちょっと浅いというか平成っぽいというか、あっさりキレイに終わっちゃったなー、という感じ。

そもそもなんでジョーと力石があんなにライバルとして燃え上がっちゃうのか、一度見ただけでは理解出来ないのだ。

ま、それも何度か見てるうちに段々わかってきたんだけどね。


刑務所内でのケンカで出会った二人は、模範試合でお互い「倒さないとムカつくヤツ」と認識し合い、その後ジョーは階級を上げてプロデビューし、力石とリングの上で闘うために何度も倒されては立ち上がり、文字通り這い上がってくる。
その、ある意味一途な(って言っちゃうと腐女子っぽいなあw *1)行動によって力石の気持ちにも火がつき、通常だったらフェザー級(55.34〜57.15kg)の彼は無謀な減量をして、ジョーと同じバンタム級(52.16〜53.52kg)に身体を絞ってくる。


彼に振り向いてほしくてダイエットを試みた女性ならきっと、恋心だけを燃料に5kg落とすのがいかに難しいことかお分かりいただけるはず。特にプロボクサーなんて、元々の体脂肪率ヒトケタなわけで、そこを落としつつ筋肉は減らさないことがどれだけ大変なことか。


しかもこの二人の場合は、その後に楽しい恋愛がスタートするわけじゃなくて、8ラウンド=約30分間殴り合うためだけにこんなことしてるという・・・まさに拳の持つ磁力に惹きつけられた者同士の宿命、なのだ。


彼らは言葉で会話するわけじゃなくて、拳で語り合う。お互いを理解し合う。
お互いを殴る行為は結果として相手を傷つけ、自分も傷つくのだけど、それは決して「奪う」行為じゃない。むしろ「与え合う」行為だ。

こんなようなことが丹下段平役の香川照之氏の「慢性拳闘症」に書いてあった(気がする)。本当にそうなんだと思う。

慢性拳闘症

慢性拳闘症


ちょっと上から目線でジョーを見てたはずの力石が、ロッカールームでケンカ腰のジョーに対して言う。


「(グローブを手に取り)こいつが俺のすべてだ。矢吹よ、グローブをはめろ。決着はリングの上だ


ここ、すごく好きなシーンなんだけど、これがラストで丹下ジムに戻ってきたジョーの、力石から託されたグローブを手に取る行為につながるんだよね。


自分の人生すら大事にしてなくて野良犬みたいに荒んだ日々を送ってただけのジョーが、ボクシングと、力石と出会い、そこから拳を通じていろんなものを与えられる。
ドヤ街の人たちの「勝って!」という願いに応えたい、と思うようになる。*2


いろんな人たちからたくさん「与えられ」たことで、ジョーはようやく自分で自分の人生=明日をつかみとれるようになる。それが、あのグローブをはめた瞬間なのだ。


「リングに上がって来いよ」、という力石の幻影に誘われるように、グローブをはめリングでシャドーボクシングをするジョー。この場面にはかなりグッときた。
(※泣き所といえば、力石のトレーナー役の梅津さんがその死で泣きじゃくってる姿にも泣かされました・・・(T_T))


自分も柔術を通じて本当にささやかながらも、組み合うことで相手にはいろんなものをもらってるんだ、ということに気付いたクチだ。なので、この「拳を通じてリレーされる思い」というテーマには「そうそうそう、そうなんだよーーー!」と共感してしまった。


第二部が映画化されるかはわからないけど。

その肉体改造の凄みで「あしたの力石」「あしたの伊勢谷」になってしまった感もあるこの「あしたのジョー・2011年版」。むしろ力石がいなくなったあとのジョーを山Pがどう造形してくるか、見られるものならぜひそこまで見てみたい。

まだ20代の彼なら、また過酷なトレーニングがあってもきっと耐えてくれる気がするし。


映画製作スタッフの皆さま、真っ白な灰になって燃え尽きるジョーの姿をぜひ、ぜひ実写化してください!よろしくお願いしますm(_ _)m

*1:ウルフ金串によってダウンさせられたジョーが立ち上がる場面での「クララが立った・・・!」みたいな伊勢谷・力石の眼差し、とんでもなく切ないです♪

*2:その手の感情を顕にするのが恥ずかしいキャラとして、山Pジョーはなかなかキュートな存在感があったと思う。でもやっぱもうちょっと、男っぽさもほしかったかな〜・・・