一枚のハガキ in 東京国際映画祭2010

かなり久しぶりの東京国際映画祭。最後に観に行ったのは・・・いつだっけ?

御年98歳、日本で最高齢の現役映画監督である新藤兼人監督の最新作「一枚のハガキ」を観るために、はるばるギロッポンまで行って参りました。


ちょっと遅れてしまい、映画の途中から入場するハメに。全席指定なので、着席の際ご迷惑をおかけした方々、ゴメンナサイ。
ちょうど自分がご贔屓にしている役者さんが登場したあたりから、ものすごーく画面が観にくい位置で鑑賞開始。
今回は1300円で観てるから許すけど、通常あの席で1800円取ってるなんてヒドイぞ!>TOHOシネマズ六本木ヒルズ


私の贔屓の役者さんは今回、召集された兄が戦死したあとその兄嫁と結婚して家を継げ、と言われる弟役。妻となった兄嫁(大竹しのぶさん)を「あねさん」、と呼ぶのが切ない。映画祭の字幕では大体「Darling」と表記されてたけど、兄貴の嫁さんが妻になる異様さがそれで伝わったかな?とふと思う。

彼の演技はいつも、どこかに暗さというか影があって。それがハマるタイプの作品だと私のようなファンにはたまらないものがあるのだけど、一般受けしないのかもなあという気もする。
でも今回の「一枚のハガキ」では、彼の持ち味がうまいことハマってる気がした。


年齢的にもメインキャストの中で一番若く、その彼の死が家庭を決定的に崩壊させていくきっかけになる。義理の姉を妻とする逡巡、それでも自分を受け入れて妻となってくれた女性を愛しく思う気持ち。その愛ゆえに ―いや、ひょっとしたら愛を口実にしてるのかも。そこらへん、ちょっと微妙な感じ― いっそ現実から逃げてしまおうかと思いつつ、自分にはどうすることも出来ないやるせなさ。


「どっちに転んでもつらい選択肢しかない」


という戦争の持つ「影」の部分を引き受ける彼の演技は、とても印象的だった。
だからこそ、そのつらい現実に立ち向かって「生きる」方へ歩み出していく嫁=大竹しのぶさんのたくましさとキュートさを併せ持った演技が、より一層際立ったように思う。

映画は特別奇をてらった演出もなく、時におかしみやエロスを匂わせつつ、淡々と続いていく。安心して俳優陣の演技に見入っていられた映画で、それでいて途中で何度も涙があふれて仕方なかった。


上映終了後、新藤監督と大竹しのぶ豊川悦司六平直政といった俳優陣が登場してトークセッションがあった。事前に知らなかったので、余計嬉しかった。嬉しいサプライズ。

車椅子姿で登壇した新藤監督はとても小さくて、話す言葉もゆっくり、でも時折ユーモアも交えられて、本当に映画撮るのこれでやめてしまうの?と思ってしまうほど。
でも質疑応答の中でも、映画を撮ることの大変さ(それは資金繰り等も含めて、なんだけど)が随所に垣間見られて、単純に「この調子で50本目も撮ってください!」と能天気には要求できない重さみたいなものも感じられた。


この人は、こうやってずっと映画を撮り続けてきたんだな。
戦友100人のうち、自分を除いて94人が亡くなったという事実。「死の魂につきまとわれながら」その思いをずっと抱き続け映画にして世に問う精神力は、私には想像もつかないパワーを要することなのだと思う。

まさか自分が泣くとは思ってなかったんだけど、新藤監督を目の前にしていろいろ考えていたら、またボロボロ涙がこぼれてしまった。
でも、同時に力ももらったというか、やっぱり今日は行ってよかった。そう思った。


「一枚のハガキ」は来年の夏公開。そのときにはまた絶対(ちゃんとした角度のw)スクリーンで観たい。

新藤監督、これからもどうぞどうぞ、どうぞお元気で。


【追記】
「一枚のハガキ」審査員特別賞の受賞、おめでとうございます。