自分に出来ることは何だろう?(その3)〜児童相談所の役割について〜


大阪の2幼児遺棄死亡事件に関連した自エントリ

 1.自分に出来ることは何だろう?〜大阪2幼児遺棄死亡事件について〜

 2.自分に出来ることは何だろう?(その2)〜臆せず通報!〜


児童相談所(以下児相)での勤務経験のある人に会った。
現在も行政の立場で、児童虐待防止への取り組みをしている人だ。

いきなり児童虐待について、大した知識も持たない素人が「話を聞きたい」というのも唐突だよなあと思ったのだけど。彼女は自分が啓蒙活動をしている立場上、一人でも多くの人が虐待に関して知識を持つことはありがたい、と歓迎してくれた。


私は今回、とにかく虐待によって死亡する子どもが一人でも少なくなってほしい、と思って彼女に連絡を取った。児相のような専門機関、専門家でもない一市民が、この問題に関して何か役に立てることがあるのだろうか。それを知りたかった。
でもそれにはまず、児相のやっていることを知ることが必要だ。
見当違いな児相攻撃で満足して、そこで思考停止に陥っていてはだれも救われない。


<1>児童相談所のやっていること


話を聞いてみれば当然なんだけど、個別のケースはいつ死亡事例になるのかなんて、わからない。児相職員たちは常に、たくさんのケース(平均200件とも報道された)を抱えているけれど、この内訳がすべて死亡に結びつくような重篤なケースばかり、というわけではない。


事件のせいでかなり攻撃された児相だが、そもそも児童虐待専用の機関ではないのだ。市町村や関係機関と連携して、児童に関するさまざまな相談に応じ、必要に応じて子どもを一時保護し、児童養護施設への入所や医療機関への入院、里親のあっせん等を行うことがそのメイン業務だ。

その相談内容は、以下の5つ。


(1) 養護相談(虐待だけでなく親の離婚、病気等による保護も含む)
(2) 障害相談(医学的な意味での児童の障害に関する対応)
(3) 非行相談(非行や犯罪行為に走る児童への対応)
(4) 育成相談(しつけや不登校等)
(5) その他の相談(DV等)


あまりにも(1)がクローズアップされるけど、実際に児相が受け付ける相談件数としては(2)(4)がかなり多いらしい。要は、病気なり、その子の性格や親の性格との相性により、育てにくさを感じた親の相談に応える役割が大きい。(5)も、夫からの暴力から逃れて当座の生活に困る女性に生活保護の申請方法や避難施設を案内することで、その子どもを守ろうというものだ。

で、これが全部きれいに分類できるわけではなく、例えば発達に遅れのある子どもを可愛いと思えなくて虐待してしまう、となれば(1)(2)両方にまたがるし、夫がしつけと称して子どもに暴力をふるったせいで子どもは不登校に、なんてことになれば(1)(4)(5)、となる。親が満足に食事を与えず面倒を見ないため、空腹の子どもがコンビニ弁当を万引きして警察に捕まる、なんてケースだと(1)(3)だ。

これらの複雑な個別のケースに関する相談に応じ、適切な機関を紹介し、市町村の支援サービスにつなげる。虐待への対応はその役割の一部であって、200件全部が虐待オンリーの事案ではない。単純に(2)だけ、(4)だけ、というケースも多い。だから簡単に処置できる、というわけではなく、常に(1)と(2)〜(5)は絡み合っている。


彼女曰く、200件どころか50件も事案を抱えてしまうと、もうかなりの忙しさだとか。これは何らかの仕事をしている人なら、だれにでも想像がつくと思うけど、自分が進捗を見守らないといけないタスクが常に50個進行している。しかもそのどれが、いつ、どんな風に深刻なケースに発展してしまうかはわからない(もっとも、そこは専門家なので、特に重大なケースは大体目星がつくというが)。これはかなりのプレッシャーだろう。


この上に、通常の連絡報告業務、窓口での相談対応はもちろんある。国から何らかの通達があれば、それに沿って資料をまとめる必要も出てくる。それでも、「仕事が忙しくて自宅訪問ができずに子どもは死にました」、なんてことがまかりとおる業界ではない。当然だ。だからみんな必死だし、そのせいで身体を壊す人も多い。彼女も去年、一か月以上入院していたそうだ。


慢性的に人員は不足していて、しかもその職員の質も一定水準ではない。極端にいえば、昨日まで水道局にいた人が、今日からは児相で虐待対応します、という人事もないわけではない。職員みんながみんな、虐待問題のプロ集団ではないのだ。残念ながら。
マンパワーの問題は、そのまま児童の福祉に対する国の予算がどれだけ割かれているか、の問題にそっくり置き換わる。これを直接児相本体にぶつけても、何も解決はしないだろう。


とにかく、児相はそこだけで虐待のすべてを管理している機関ではない。相談を受理し、適切な機関と連携した後は、基本的に市区町村がその後のケアにあたるよう引き継ぐ。人員が常に足りない中で、担当者たちはスキルと能力差を抱えつつ業務にあたっている。それが現状のようだ。


(長くなったので、とりあえず次に続く)