家庭内で起きた異変のワンストップ化は可能か?

ずっとエントリとして取り扱い続けてる大阪の2幼児遺棄死亡事件だけど。

今日、母親が殺人容疑で再逮捕された。


「大阪2児放置死、母親を殺人容疑で再逮捕」


 大阪市西区のマンションで幼い姉弟2人の遺体が見つかった事件で、大阪府警捜査1課の西署捜査本部は10日、母親の元風俗店従業員・下村早苗容疑者(23)を殺人容疑で再逮捕した。


 下村容疑者は容疑を認めている。

 発表によると、下村容疑者は6月初旬から7月29日にかけて、自宅マンションに長女の桜子ちゃん(3)と長男の楓ちゃん(1)を置き去りにしたまま外出し、姉弟を殺害した疑い。

(2010年8月10日16時15分 読売新聞)


この事件を扱うとき、私はずっと「2幼児遺棄死亡事件」と書いてきた。割と意図的に。
でも、やっぱりこれは明確な殺人だよな、とも心の中で思ってもいた。


6月の末の大阪は、もう蒸し暑くなり始めていたはず。そこに、家に鍵をかけただけではなく、居室のドアに目張りまでして出かける。しかも、部屋に食べ物や飲み物になるものをほとんど置いていかない、というのは、やはり単なる「置き去り」「遺棄」とは言い切れない。明確な殺意まではないにせよ、少なくとも未必の故意は確実に判断されるだろう。


彼女の育った境遇や状況には、彼女自身が父親から受けた虐待(ネグレクト)を疑わせるものもあり*1、同情すべき余地がたくさんある。でもそのことと、人を殺めた者はきちんとその罪を償うべき、と思う感覚とはまた別だ。
彼女には、生きる力のない無力な2幼児を死に至らしめた罪と、きちんと向き合ってほしいと思う。

なお、離婚して子どもを抱えた母親がどれほど大変な思いでやってかなくてはならないか?については、id:kukkyさんのエントリ「離婚して子どもを育ててるひとり親家庭はワープアになりやすいという話」にとても詳しい。ぜひ読んでほしい。


詳しいことはこれから、裁判になる過程で明らかになるだろう。けれど私の関心は、そちらにはない。

同じような目に遭って命を落とす子や、死なないまでも心に重い荷を背負って人生をやっていかなくてはいけない、そんな子が一人でも少なくなるように。自分のように、直接の当事者でない者でも、こんな現状を少しでも変えていける、そんな道を探したい。そう思っている。


こんな記事を読んだ。


2児放置死:「30分泣き声続く」異変伝える通報


 大阪市西区のマンションで幼児2人の遺体が見つかった事件。虐待を疑う通報を受けながら、安否を確認できなかった大阪市こども相談センター(児童相談所)の対応に批判が集まる。大阪市平松邦夫市長は2日、今回の事件での相談センターの対応について「夜間通報に対する出動態勢を検証しなければならない」と述べ、問題がなかったかどうか調べる考えを示した。


 「今も30分ほど泣き声が続いている」


 市が重視するのは、住民女性からの3回の通報のうち、5月18日の最後の通報。「『今』の異変」を伝える内容にもかかわらず、自宅を訪問したのは通報の約10時間後。「通報に虐待を思わせる大人の怒鳴り声などがなかった」というのが理由だが、同センターの夜間態勢の不備も背景にある。


 大阪市では、昨年4月の小4虐待死事件を教訓に、緊急の際は24時間いつでも職員を派遣することにした。だが午後10時半から翌朝9時まで、庁内に職員は1人しかいない。自宅などにいる職員が駆け付ける態勢だというが、「(1人が)職員派遣の是非を判断するには荷が重い」というのが現状だという。


 平松市長は「早く対策を講じたい。何が何でも子どもの命は守る」と強い姿勢を見せた。担当幹部も「どんなケースでも対応できるよう、悩みながら、一歩でも二歩でも進まなければならない」と話す。当面は、夜間の出動態勢の見直しが急務となる。


 ◇「無関心もうやめたい」
 マンションの住人も「なぜ救えなかったのか」と自問している。20代の男性は泣き声などを聞いて、管理会社に2、3回通報。だが改善はされなかった。先月29日には、部屋の所有者と借り主を取り持つ会社に通報。これがきっかけとなり、事件は発覚したというが、既に2人の命はなかった。別の20代女性は「どこに連絡していいかわからなかった」と言う。


 住人の大半は20代の若者だ。近く有志約10人がなぜ2人を助けることができなかったかを話し合うために集まるという。呼びかけ人の女性(28)は言う。「2人の死を無駄にしたくない。無関心でいるのはもうやめたい」【平川哲也、服部陽】
毎日新聞 2010年8月3日)


マンションの若い住人たちは、この事件で一体、どれほどのものを背負ってしまったのだろう。


隣人に無関心でいることはよくない。それはそのとおりだ。でも、児童相談所に3回、マンションの管理会社に2,3回。子どもの存在も明らかでないマンション住人として、それなりに行動した人はいたことなる。

もしこの二人が別々の場所にではなく、同じ公的機関に情報提供出来ていたら。
子どものことだから児童相談所。マンション住人のことだから管理会社。そういう「縦割り」な発想でなく、その家庭内・住戸内で起こってる緊急事態については、どこかに情報がワンストップで集まる体制を作れないものだろうか?


それは警察がいいのか、消防署がいいのか。いや、それでは公権力の家庭内への過介入につながるというなら、SECOMみたいな民間の警備会社でもいいけど。とにかく情報を一ヶ所に集めて、かつ通報する人にも「あそこに連絡しよう!」とすぐ思い浮かぶような窓口があっていいように思うのだけど。

・・・ああでも、やっぱりこれも監視社会につながってしまうのかな。

まだ自分の中でも、明確な理想像が浮かばない。もっと考えなくちゃ。


とりあえず、「勝間和代のクロストーク」の提案にあるように、虐待に関する通報ダイヤルを110番や119番並みに覚えやすい3桁にする、というのはいいアイデアだと思う。

ただ、受け皿になる児童相談所の体制再構築(人員増、専門家増)がかなり茨の道のような気もするけど。

*1:まだ未確定だけど。正確には、追々裁判で明らかにされる情報を待ってから判断したい。