自分に出来ることは何だろう?〜大阪2幼児遺棄死亡事件について〜


この事件に関してはツイートは散々してたけど、どちらかというと感情が先走ってなかなかブログにはまとめきれてなかった。

でも、id:Chikirinさんがある程度まとまったことを書いてくれてた(chikirinの日記:2010_08_01「誰が何をネグレクト?」)ので、事件の概要とかは省いて自分の経験から思うことなどつらつら書いてみる。

※長くなるので、興味なくなったら適当にスルーして下さい。


私が児童虐待問題に強い関心を寄せることになったのは、約10年前、第一子を出産してから。よくある動機だと思う。児童虐待防止法が施行されて、話題になっていたこともあった。


当時仲間内でのネットの会話でも、具体的に何をすれば役に立つのか、さっぱりわからなかった(独身者が多かったせいもある)。でも当時から、児童相談所マンパワー不足を嘆く人はいた。

仕方ないので自力で調べて、とにかく当時住んでいた自治体の児童相談所に「何か出来ることはないのか」を聞いてみた。


そこで「児童相談所は虐待児の問題だけを扱っているわけではない。そういうお気持ちを持っているなら、児童養護施設にいる子どもたちの里親になるという手もある」といわれた。
そこでまた、自宅から一番近かった児童養護施設へ話を聞きに。


そのとき私はまだ産後半年で、授乳中だった。里親の責務や、実際に自分が子どもを育てられるかなんてわからないくせに、「母乳出るんなら、もう一人よその子にも上げられるじゃん。今なら大丈夫♪」とわけわかんない理屈で、施設を訪問したのだった。


担当してくれた年配の女性は、子連れで訪問した我々夫婦を歓迎してくれた。
「とにかく里親はいまなり手が少なくて、興味を持って下さる方は大歓迎です」と喜ばれた。
しかし、実際詳しく話を聞いてみると、現実に「他人の産んだ子を育てさせてもらう」ことは何かと大変なのであった。
※聞いた内容はすべて10年前のものであり、多少記憶があいまいな部分もあります。


・実子がいる人は、その子が3歳になるまで待ってもらうことが多い。やはり実子が別の子を委託する、という状況を受け入れられるようになってからでないと難しい


・子どもとの相性もあるので、面会を複数行うなど時間がかかる。里親登録後から実際に子どもを委託されるまでには、1年や2年はかかることもあるのは理解してほしい


・0歳から2歳までの乳幼児は児童養護施設ではなく乳児院にいる。小さければ小さいほど里親希望者は多い(記憶に残らないから、実子同然に育てられるので、そういう子たちの方が委託されやすい)


・3歳以上の児童養護施設で養育されている子たちは、年齢が上がるほど、そして女の子より男の子の方が里親のなり手は少ない


・里親になれば、委託した子の養育費用が出るし、病気の場合は(家族とは別になるけど)健康保険が使えるから費用負担は心配いらない
(ただ、具体的な金額の提示はなかったし、現在ネットで調べても割と情報が少ない。里親手当を目当ての養育につながらないか、きっと警戒しているのだろう)


・基本的に里親認定の基準では法律婚の夫婦しか認められていない。我が家は事実婚なのだが、その女性は「でも出来るかどうか確認してみます」と、まったくダメとは言わなかった(ちなみに現在では注釈5にあるとおり、事実婚や内縁関係でもOKになっている → 参考:「東京都里親認定基準」


やっぱりそう簡単じゃないんだなーと思った。当然か。自分でもあまりにも考えが甘かったことに気付く。
そしたらその女性から、「せっかくおいでになったんだし、施設の中をご覧になりませんか?」と言われた。

そうだな、もし本当に里親希望するのだとしたら、この中に未来の子どもがいるのかもしれないし。そう思って、夫と見学させてもらうことにした。


10名未満(7,8人くらいだったように思う)の子どもたちが、ひとつのハウスの中で一緒に寝起きしているという。
ハウスの前を通ったとき、3,4歳くらいの可愛い女の子がいたので「こんにちわ」、と声をかけたけど、ものすごい目で凝視されたあと、くるっと背を向けられた。ちょっとビビる。


案内されてハウスの中へ。普通の一戸建てのようになっている。玄関で靴を抜いでいるだけで、中にいた子どもたちがわらわらと群がってくる。
元気のよさに「やっぱり普通の集団生活なのね」と思いつつ中に入ると、段々と自分の知っている「家庭」とは違うことに気付く。


子どもたちの部屋に入ると、みんな我先に「これは僕のクレヨン」「私の絵本、これなの」と物を提示しながら話しかけてくる。個室はなくて、持ち物にはすべて名前つきなのだと、説明を受ける。

そしてとにかく「ぼくね」「私ね」、と自分の話を聞いてもらおう!というパワーが半端ない。それでいてこちらが腕に抱えている0歳児には、あまり注目されない。子どもと接すると「赤ちゃんだー」と言われることが多いのに。


いろんな子がマシンガンのように喋るので、こちらものべつ幕なしその相手をすることに。正直言ってかなり疲れる。でも歓迎されてるみたいだし、いろんな子と話しておかなくちゃ。

そのうちに、なんだか異様に活気のある状態に違和感を感じたのか、乳児がぐずり始めたので失礼することに。
案内してくれた人が我々の退室を告げると、とたんに子どもたちは潮が引くようにいなくなってしまった。


来たときとはすっかり雰囲気の変わった玄関。そのときになって気付いた。
別に歓迎なんて、されてたわけじゃなかった。我々は単に、興味本位で立ち寄っただけの第三者だと彼ら・彼女らはわかっていただけなのだ。


この体験は、かなり強烈なものだった。自分には当面、里親は無理なんだ。そう思った。
夫とも話し合ったけど、やはり今の時期に登録申請は出来ない、と判断した。

とりあえずその施設と、地域の児童虐待防止に取り組んでいる団体に募金だけは数年続けていたけど、何度目かの切り替え期に会費を入れそびれ、そのままになった。


私がこの10年で、児童虐待に多少関わったといえる経験は、たったこれだけ。
日々の暮らしや、第1子出産から大分経ってから産まれた第2子の出産に追われて、結局何もして来れなかった。


今回の事件がこんなにも引っかかるのは、この体験のせいだ。
今度はもう少し、何か具体的なことが出来ないか。事件の報道以来、ずっと考えている。


でも、専門教育を受けない里親は虐待児を養育することはないというし、そうなるためのハードルはとても高い。

そもそもその後夫から、実子が二人も出来たんだし、無理して他人の子を引き取りたくはない、とも言われたので、多分里親路線は実現しないと思う。


こんな半端な状態で、出来ることがあるのか。そう思いつつ、それでも考えないといけないんだ、とも思う。

こんな情報がだれかの役に立つのかはわからないけど、とりあえず自分の経験を書き残しておくことにする。


【参考資料】
「厚生労働省:児童虐待相談対応件数等及び児童虐待等要保護事例の検証結果」
※添付資料の2番目の「出頭要求等について」と3番目の「死亡事例等の検証結果等」を読むと、虐待の恐れのある家庭に第三者が入り込むことの難しさがよくわかると思う。